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エビデンスに基づいた健康情報

栄養素と病気予防

栄養素のお話ー鉄
2022-08-20
オススメ
 今年の夏は天候不順のこともあり、蝉しぐれを経験できませんでしたが、先日の夕刻、蜩のカナカナという声を聴き、夏も終盤かと(蜩は本来初夏から晩夏まで鳴くそうですが)少し寂しい思いをいたしました。
因みに蜩は秋の季語だそうで、透明感のある羽や胴体に私たちは儚さを感じるのでしょう。これからは虫の音を楽しむ日々が訪れる秋が巡ってきます。

東京医科歯科大学 角田忠信名誉教授によれば、虫の音を認識できるのは日本人とポリネシア人だけだそうです。どうやら日本人とポリネシア人は虫の音を左脳で声と認識し、他の多くの民族では右脳で雑音と認識するそうです。いずれにしても楽しみは多い方が望ましいので、母国語が日本語で良かったと思っています。日本人は自然に対する感受性の優れた国民のようで、古来より四季の移ろいにものの哀れを感じ万葉集をはじめ、和歌などに多く謳われています。

 そうした日本人の溢れる感性とは別に、日本人に不足していると言われる栄養素があります。それがミネラルの一種、鉄です。
ミネラルとは無機物のことで、栄養素として生理作用に必要な無機物をミネラルと呼んでいます。
日本人には体内の鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血が多いそうで、貧血大国とも呼ばれています。特に女性の場合、生理の時の出血が概ね鉄欠乏性貧血の原因となっています。

鉄欠乏性貧血とは具体的にお話すれば、赤血球中のヘモグロビンに含まれる鉄が不足して起こる貧血で、身体の中に保存されている鉄に比べて、体外に出ていく(鉄の損失量)鉄が上回っている状態です。

つまり、摂取量と体外への排泄量のバランス(出納と呼びます)が崩れて鉄が赤字になることで起こる疾患です。では、鉄を多く含んでいるレバーなどで赤字を埋めればよいのでしょうか?もちろん、鉄欠乏性貧血の治療や予防には鉄が必要です。

但し、鉄の摂取は無条件で健康に有益というわけではありません。がんと鉄の関係を調べた多くの研究から1件選んでお伝えしましょう。
米国イリノイ大学研究では、血中鉄分の多い女性の場合、少ない女性に比べて前ガン状態のポリープも含めると約5倍直腸がんのリスクが高くなると報告しています。特に赤身の肉などに含まれるヘム鉄の摂取がリスクを高めているそうです。(同様の結論へと導く論文は他にも散見されます。)

日本人の場合、諸外国と比べて肉類の摂取が少ない(最近肉類を多く召し上がる方も多くなり、大腸がんなどが増加していますが)ので、鉄の過剰摂取を心配する必要は殆どありませんが、サプリメントなどをご利用の場合には、推奨量を超えることがないようにご注意ください。

貧血は日常生活にも支障をきたしますので、ご自身に貧血の自覚症状がある場合には受診して治療する、食事などで補給することなどをお薦めいたします。