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広報アーカイブス

身体の揺らぎ、何となく不調 (2022年4月掲載)

 世界の揺らぎを多くの方々が感じられていると思います。平和は私たち人類が希求している重要なことですが、知性に裏打ちされた理性が先行しない限り維持できないのです。私たち人類はその2つを併せ持って生を受けたはずですが、暴走する力を抑制できないのでしょうか?抑圧によって厳しい生活を強いられている方々も世界中におられます。ロシア侵攻によってウクライナの方々が非道な暴力に晒されている現状はその象徴なのでしょう。心を傷めておられる方が世界中に数限りなくおられると思います。私たちにできることを小さくても積み重ねて本来のヒトという種の優しさや思いやりを生きる糧にしてまいりましょう。日本と同じようにハワイに在住のロシアの方々もウクライナの方と同様等しく平和を求めておられると思いますので、出身国による差別は絶対に避けたいものです。

 こうした不安定な世情では自律神経の乱れによる“何となく不調”を感じられる方もおられるでしょう。何となく不調は病院で検査などしても特段の異常が無いのに、自覚症状として身体のあちこちで不具合があることを指します。代表的な症例に更年期障害がありますが、眠れない、頭痛がする、首や肩が辛い、めまいなども含まれます。また、気力が無い、体力が無く横になっていたかったり、静かにしていても心臓がドキドキしたり、呼吸が苦しくなるなど数え上げたらキリが無くなります。こうした不調の原因に首の神経が不調になっていることが挙げられます。“首は神経の交差点”と呼ばれ、姿勢が悪かったり、スマホの過剰な利用やデスクワークが多かったりする方には交差点に不具合が生じ、結果として全身症状に繋がるそうです。不調があれば、一度首の状態を診ていただくこともお薦めします。一時的には姿勢を正し、首を温めることや、遠赤外線治療も望ましいと思われます。自律神経は脊椎に守られた神経ケーブルの骨髄を通り全身の各器官と繋がっていますので、あまり知られていませんが、背骨の歪みが自律神経の乱れの原因となることもあります。

また、栄養状態も大きく影響します。タンパク質やビタミン・ミネラルのアンバランスな摂り方による不足が身体全体に影響します。また、体内の貯蔵鉄の不足による貧血(日本人は世界的にみても鉄不足だそうです)も原因の一つに挙げられます。因みに米国では鉄の食品への添加が義務付けられているので、ハワイでは問題ないでしょう。ストレスを強く感じる場合にはビタミンB群が消費されてしまいますので、積極的に摂りたいものです。但し、ビタミン類もミネラル類も私たちの身体の中では協働しますので、マルチタイプのサプリメントをご利用になるのもよいでしょう。

 世界に平和が訪れて心も身体も健やかに穏やかな春を過ごしたいものですね。

一日3回の片足立ち (2022年2月掲載)

 2月1日あるいは2日には春の兆しを祝うケルトの伝統的なお祭りインボルグ祭がアイルランドやスコットランドで行われるそうです。 インボルグの日は太陽と健康、そして鍛冶を司る女神聖ブリギットの聖日です。 聖ブリギットは暗い冬の日々から光溢れる春へと導く神として古くからケルトの人々に敬われてきました。 

現在日本ではいったん収束したかに見えた新型コロナは変異した新たなオミクロン株によって感染者数が日々更新されていく状況の中、春の兆しを多くの方が待ち望んでおられるようです。

 そこで、 未来に目を向けて今年は抗加齢(抗老化) に焦点を絞ってお伝えしたいと思います。 “まだ若いから抗加齢など必要ない” と思われる方もちょっと目を通していただけると、加齢対策は早めのほうが効果的と気づいていただけるかもしれません。なんといっても加齢は平等に訪れますが、老化はすでに20歳後半から始まるのです。 

老化は身体のどこから始まるのでしょうか? 研究者は専門分野の老化を強調なさいますが、私たちが自分で感じやすく、対処しやすい場所からお話を始めましょう。 分かりやすいのは皮膚や髪の毛、 それに次いで筋肉の低下です。 

「片足立ちを1分間できますか?」 実は研究によって片足立ちを1分間維持できるか否かは全身の機能に関わっていることが報告されています。 片足立ちの時間が短い場合、サルコペニア (加齢による筋肉量の減少とそれに伴う身体機能の低下)のリスクが高くなり、片足立ちが40秒未満の場合には脳が萎縮 (20代から萎縮は始まります)傾向にあるとのことです。 片足立ちが20秒未満の場合には明らかに認知機能の低下がみられ、認知症の一歩手前である軽度認知症が (MCI) の割合が研究では高かったと報告されています。また、骨密度も低下していることが明らかで、骨密度の低下は姿勢の老化を招きますので、“老け見え”に繋がりそうですね。

 では片足立ちが1分間できるようする方法はあるのでしょうか? さあ、抗加齢に挑戦しましょう。 簡単にできる方法があります。
片足立ちを1日3回、1分間続けることで様々な機能の回復が見込めるのです。片足立ち1分は50分歩くのと同等の負荷が太ももの付け根の骨にかかるので、下半身の筋肉を鍛えることができます。よく筋トレをしているので筋肉量は大丈夫とおっしゃる方がおられますが、年齢を重ねると筋肉量の多寡と筋力の維持には相関関係がなくなります(勿論筋肉量が多いのは歓迎できますが)。 

サルコペニアが気になる方は40cm程度の椅子から反動をつけずに立ち上がり、その後3秒間片足立ちができれば問題ないそうですので、併せて覚えておいていただけると何かの場合目安となるでしょう。 継続は力なり、ですので今日から片足立ち1分を3回、毎日続けて身体全体を支えるバランス力によって、未来も同じような立ち居振る舞いができるようにいたしましょう。

脂質は悪者ですか [2] (2022年1月掲載)

「年明けてゆるめる心! うっとりと来し方をすべて忘れしごとし一石川啄木」
この2年間、新型コロナウィルス感染症によって身近な方が彼岸へと旅立たれたり、今も後遺症に苦しんでおられたり、生活が激変した方も多くある中、9月後半より急減した感染者数によって原稿を書いている現在、街には僅かに賑わいが戻ってきたように見えます。 ただ、オミクロンと名づけられた新たな変異株の登場で、必ずしも安心して過ごせるとは限らない新年を迎えました。 この2年間に起こったことをそれ以前に誰が想像したでしょう。 未来が実は儚い夢と感じられた方も多かったのではないでしょうか。 感染症だけでなく、地球環境の急激な悪化も伝えられています。後に続く子供たちに穏やかな未来を残すために、 今こそ私たちがすべきことを見直し、新たな価値観を見出すことも必要と感じています。

 さて前回の問いかけ“脂質は悪者” をもう少し掘り下げてみましょう。今回はタンパク質が豊富に摂れる代表的な食材、肉のお話をしましょう。 タンパク質を摂れる食材には大豆など植物性もありますが、動物性たんぱく質には私たちヒトが外部から摂り入れなくてはならない必須アミノ酸のバランスが植物性に比べて優れています。 では、どんな肉でも同じ組成かといえばそうではありません。 育成環境によって肉の脂が異なっているのです。 牛肉に関して言えば、牧草を与えて自然な環境で育った牛 (Grass-fed beef)とトウモロコシなど穀物を与えて育てられた牛 (Glen-fed Beef) を比べると、後者の脂身にはオメガ6系脂肪酸が多いのです。 もともと肉は飽和脂肪酸が多いために心血管の健康にはあまり望ましくないと言われています。 オメガ6系脂肪酸も適正量であれば必要ですが、家庭で使用されがちなサラダ油や大豆や小麦など日常的に口にする食材にも含まれていますので、過剰摂取になりがちです。 オメガ6系脂肪酸の過剰摂取は喘息などのアレルギー疾患や動脈硬化など生活習慣病と呼ばれる疾患の原因ともなります。 そのため、 肉を食べるのであれば育成環境を視野に入れて食材選びをすることも健康に資することとなります。 

また、油を利用する場合、サラダ油の代わりにオメガ9系脂肪酸のオリーブオイル (フレンチパラドックスーフランス人が脂肪分の多い食事をしても心血管系の病気に罹るヒトの割合が小さいという逆説の一因と言われています。) や菜種油などを利用することも良いでしょう。

最後にマーガリンのお話。 従来、マーガリンは身体に有害と言われていましたが、ミネソタ大学の研究(PubMed) ではバターよりもマーガリンの方が心血管に有益と報告しています。 これは FDA が2018年に食品への水素添加物油脂の使用を禁止したことが大きな要因となっているそうです。

 今年こそは穏やかな日々が過ごせますよう、安全な食卓でありますよう願っております。

脂質は悪者ですか[1] (2021年12月掲載)

 12月に入ると街はクリスマス仕様となります。この2年間コロナ禍により自粛生活を余儀なくされた日本ですが、今現在は感染者数が東京で6人、全国的にも100人台と急減し活気も戻ってきました。12月に街の広告には Xmas と書かれたものをみかけます。商業ベースの標記と考えておりました私が無知で、実は「X」は24番目のラテン文字 ギリシャ文字に由来しているそうで、英語表記のChristmas より起源は古いと言われています。

クリスマスには家族が集まってキリストの降誕を祝います。その折、七面鳥など豪華なメニューで食卓が賑わいますが、脂質などの食材が多く使われます。動脈硬化などの原因の一端とされている脂質で健康志向の方には敬遠されがちですが、本当に脂質は悪者なのでしょうか?
脂質には重要な役割が多くあります。脂質はタンパク質や糖質と並んで三大栄養素であり、エネルギーを産み出す力は三大栄養素中圧倒的に高いのです。タンパク質、糖質が 1g 4kcal に対して脂質は9kcalもあります。また、脂質は細胞膜やホルモンの材料となり、体温を維持したり、脳や神経細胞を健康に保ったりと大忙しです。そのため、脂質を悪者と決めつけて適切に利用しなければ、当然身体は不調をきたします。特に魚油などに含まれるオメガ3系脂肪酸など多価不飽和脂肪酸と呼ばれるグループは、体内では合成できませんので食事などから摂る必要がある必須脂肪酸です。

 一方で危険な脂肪酸もあります。すでにご存知の方も多い
と思いますが、マーガリン、ケーキ、クッキーなどの焼き菓子、パン、スナック菓子などに利用されるトランス脂肪酸は液体油脂に水素を添加し、酸化しにくい(日持ちがよい) 人工油脂です。トランス脂肪酸の摂取によって悪玉コレステロールが増加し、善玉が減少することで動脈内膜に炎症が起こりやすくなり、結果として動脈硬化へと進む可能性があります。米国医師学会ではトランス脂肪酸を含む油から菜種油やオリーブオイルに切り替えるだけで3万~10万人の早死を防ぐことができると報告していますので、どういった油を摂るかは重要です。

また脂質がダメなのではなく、脂質の種類をバランスよく摂ることが大切なのです。オメガ3系: 植物油などに含まれるオメガ6系の理想的なバランスは 2~4程度と言われていますが、実際には日本人の場合、1:20 以上との報告もあります。比較的魚を食べる日本人でもそうですので、あまり魚を食さない国ではその開きがもっと大きいのではないでしょうか? 脂肪酸の働きを簡単に捉えれば、「アクセルを踏むオメガ6、ブレーキはオメガ3、 理想のバランスは2:1」と覚えておくと便利かもしれません(このお話は次回に続きます)。

 読者の皆さまにはお健やかで楽しいクリスマスと来たる新年をお迎えくださいますようお祈り申し上げます。

睡眠のコツを覚えましょう (2021年11月掲載)

「荒海や佐渡に横たふ 天の河」誰もが知る松尾芭蕉の名句です。中学生のころ、この句を知り一度も佐渡を訪れたことが無かったのですが、雄大な景色やそこに立って凛とした空気の中で空を見上げる自分自身の姿を思い浮かべたものです。私の子供の頃にはパソコンやスマホなどが無い時代でしたので、映像や画像は想像力を働かすしかありません。けれど限りなく広がる景色を脳の中に描き出すことができて、ある意味幸せだったように思えます。想像の翼を広げるのに最適な時間帯は個人差があっても概ねベッドに入ったときではないでしょうか? 本来、入眠直前の僅かな時間は安らぎを与えるものですが、近年、睡眠がうまく取れない、中途覚醒で眠った気がしない、酷い場合には寝室に恐怖を感じる方もおられるようです。

睡眠に関する研究はここ20年で格段に進歩しています。この紙面で全てをご紹介するのは難しいので、現在睡眠に問題を抱えておられる方に向けてより良い睡眠がとれるポイントだけを選んでご紹介しましょう。 最初に理想の睡眠時間には個人差が大きく、同じ年代でも3時間程度の差があることを知っておきましょう。 但し、1日6時間以下の睡眠時間を続けることは身体に大きな負担となります。この状態を睡眠負債と呼び、 糖尿病や心臓病、うつ病、認知症の発症率が高くなるそうです。
そこで、科学的裏付けのある睡眠法を知って実践することが重要となります。因みに日本人の睡眠負債は先進国の中でも深刻だそうです。一般に燃費の悪い動物は長い睡眠時間を必要とします。ヒトの場合でも若い人ほど睡眠が必要です。逆に高齢になれば、長い睡眠時間は必要なくなりますので、無理に床に就く努力をすれば、かえって中途覚醒などが起こりがちです。一日一回長い睡眠(6時間程度)を取
ることをメジャースリープと呼び、この間に正確な睡眠リズムをセットで刻むことができます。

では具体的にそうしたリズムを生み出す睡眠法をご紹介しましょう。 詳細は省きますがポイントは3つです。
 ①光を上手に利用しましょう。
朝、空を見上げ太陽の光を浴びること、目にきちんと光が入らなければ体内時計は動きません。
 ② 脳の温度を下げましょう。
体温が下がり始めて眠りにつくまで概ね2時間ですが、下がり方が急角度であればより深い睡眠がとれます。それには就寝の約2時間前に40℃の半身浴が最も効率的だそうです。 
また、就寝の2~5時間前には覚醒度が最も高いので、翌日に予定があっても無理に早寝をしないことも大切です。
③筋弛緩法を試してみます。 
これは手、足、肩、首などに5秒ほど力を入れて、20秒ほど力を抜くだけという実に簡単な方法です。眠ることに不安を持っている方の場合、アクティブな交感神経の緊張を和らげ、リラックスの副交感神経を優位にする効果があります。

今夜はぐっすりお休みになれますように。

今から始めるダイエット (2021年10月掲載)

「名月やわれは根岸の四畳半 ー正岡子規」
 根岸は今でいう鶯谷~日暮里界隈を指す場所で、江戸・明治の時代には閑静な風情を求めて多くの文人墨客が居を構えたと言われています。正岡子規もその一人で、今も子規の住居は子規庵として一般公開されています。先日は我が家の庭からも神々しい中秋の名月を鑑賞することができました。東京では新型コロナウィルス感染者数が急減し、人々の緊迫感が少し薄れてきたように思えます。 緊急事態宣言はまだ続行中ですが (2021年9月時点)、 人出も増えつつあります。

 コロナ禍の自粛生活で「太った」 という方は本来の日常生活に向けてダイエットを考え始めておられるのではないでしょうか。ダイエットの成功報告の多くがスタイル中心のようですが、ダイエットの効果は外見だけではなく目に見えない身体の中に起こるのです。朝、起きた時に睡眠時間はとれているのに“何となく不調”を経験したことはありませんか? 少々古い研究ですが、 カリフォルニア大学の睡眠と体内炎症マーカーの関係を調べた研究があります。この体内炎症の多くは腹部や肝臓など臓器周辺につく脂肪(内臓脂肪)の脂肪細胞から分泌される炎症物質によって引き起こされます。こうした炎症は怪我などと違って痛みなどダメージ信号が私たちの脳に送られませんので、自覚症状がありません。けれど内臓脂肪が減らなければ炎症は起こり続けて血管や細胞を傷つけ、最終的には動脈硬化などの病気を引き起こす原因ともなります。内臓脂肪を原因とした炎症は何となく不調の元ともなるのです。本来、脂肪は飢餓を乗り切るために必要不可欠でした。けれど、人類が安定的に食糧を得られるようになり、カロリー過多の食品が溢れている現代の先進国では労せず過剰な脂質などを含む食材を手に入れることができます。 脂肪細胞の中でも白色脂肪細胞は中が空洞になっていて、そこに大量の脂肪を蓄えることができる構造ですので、脂肪はドンドン溜まり膨らんでいきます。 肥満の方では通常の白色脂肪細胞に比べてその直径は20倍ほどに膨らんでいるのです。

「倹約遺伝子」という言葉があります。 この遺伝子を持つヒトの場合(日本人の約34%がこの遺伝子を持っているそうです)、年間で約10kg以上も持っていないヒトに比べて太りやすいそうです。 また、日本人は膵臓も弱いそうで、糖質を多く摂れば膵臓は頑張ってインスリンを分泌しますが、その状態が10年以上も続けば、その膵臓が疲弊してしまいます。 つまり、日本人は太りやすい体質であり、肥満はお身体への負担が大きいのでダイエットが重要になるのです。かといって急激に、過酷なダイエットはお薦めできません。

 次回は緩やかに無理なく始めるダイエットのお話をさせていただきます。ダイエットを始める方に覚えておいていただきたいのが、カロリー制限によってアンチエイジ
ング効果も見込めるそうで楽しみですね。


新型コロナウィルス感染症について (2021年9月掲載)

「草の戸や 日暮れてくれし菊の酒」
 俳句の巨星松尾芭蕉の句です。 9月9日は重陽の節句で、不老長寿を願う行事として古くは最も盛んに執り行われていました。その折、菊の花を盃に浮かべて香りを楽しんだり、前日に菊の花に綿を被せて、翌朝、菊の露を含んだ綿で身体を清めたりと風雅な一日を過ごしたと言われています。

 今、日本では新型コロナ感染者の爆発的な増加が続いています。特に若い世代の感染者が多いのが特徴で、デルタ株の感染力の強さは想定以上で、 東京では医療崩壊が現実味を帯びてきました。これまで、ホームページ やLINEで新型コロナ関連論文を中心に読者にお伝えしてまいりました内容のうち、私たちができる予防とすでにワクチン接種済みの方が再感染するブレークスルー感染に関してお伝えしたいと思います。 因みに新型コロナ関連の過去の情報にご興味がおありの場合には、jast のホームページにアクセスしていただき、“健康トピックス”(現在はエビデンスに基づく健康情報)でご覧いただけます。

 ワクチン接種が進む中 「米東部クラスター、ワクチン接種者が 74%、 当局分析“重症化を防ぐ接種”は推奨」の見出しが日経新聞に掲載された時には驚きと不安に駆られた方も多かったと思います。さらにCDC の分析によれば、デルタ株に感染したグループでは未接種者グループと同程度のウィルス量であったそうで、このニュースを目にして落胆した方もおられたと思います。 但し、このクラスターでの死亡例・重症化例はこれまでのところ、報告されていません。 ブレークスルー感染が起こるのであれば、 ワクチン接種に疑問を持たれる向きもあるかもしれませんが、ワクチン接種者が多くなれば必然的に変異株へのブレークスルー感染の頻度も高くなり、イスラエルの研究では接種完了後2週間以降に起こるブレークスルー感染の割合は2.6%だそうです。但し、感染してもワクチン接種者では重篤化への予防効果は相当高いので、 数だけ見て徒に不安を煽るのは控えたいものです。

では私たちにできる感染予防について駆け足でお話しましょう。すでに実行なさっている方も多いと思いますが
①マスク 
②うがい手洗い 
③密を避ける 
④ビタミンDの血中濃度が低い場合、感染後に重篤化する割合が多いので、日光に当たる(あるいはサプリメントで補充)
⑤結膜炎などもリスク因子ですので、 外出後目を洗う 
⑥ 外出後の衣服などの消毒
⑦ トイレなどのこまめな消毒 
⑧鼻の上部からのウィルス侵入を避けるために鼻の中を洗う ⑨狭い通路などでは意識的に人との距離を取る
⑩感染した場合にはパルスオキシメーターによる血中酸素濃度を測る必要があるため、パルスオキシメーターを購入しておく 
⑪適切な栄養摂取と適切な睡眠
などが今、お薦めできそうです (根拠となる論文に関しては エビデンスに基づく健康情報をご覧ください)。

また、スウェーデンの研究でCovid-19 は心筋梗塞や脳梗塞のリスク因子となりますので、 基礎疾患がおありの方で感染なさった場合には直ぐに必ず担当のドクターにその旨お伝えください。

 ご質問はホームページのお問合せにご連絡いただければお答いたします。

妊娠を希望する未来のママたちへ (2021年8月掲載)

 オリンピックが開催されている東京では新型コロナウイルスの感染拡大が続いております。 明るいはずの夏ですが、 人流の抑制ができていない街を歩む人々の姿も心なし影を背負っているように見えるのは私の主観なのでしょうか。 そんな中で
も夕風が頬を撫でる時間帯に自宅のテラスでビール(私は嗜みませんが) と枝豆で一息つく方も多いかもしれません。

 枝豆には多くの葉酸が含まれています。葉酸はビタミンB群の仲間で、 枝豆以外にも緑黄色野菜に多く含まれていて、私たちの身体の中で重要な役割を担っています。特に、妊娠を希望する女性や妊娠期のママには必須の栄養素です。
稀ではありますが、 葉酸の不足によって 生まれてくるベビィに障害が出ることがあります。 神経管閉鎖障害と呼ばれるこの障害では流産や死産、あるいは歩行が困難になる二分脊椎などが現れることがあります。
日本では妊娠初期に母子手帳が配られ、その中に葉酸を1日400μg (0.4mg) 摂取するよう伝えられていますが、 神経管が形成されるのは妊娠7週目あたりですので、できれば、妊娠を希望している方はそれ以前から葉酸が多く含まれている食材や場合によってはサプリメントで補うことが望ましいと思われます。

 
葉酸は赤血球を作る上でも重要な栄養素です。 閉経前の女性では生理により失われる血液が多いため、 比較的貧血が恒常化している方もおられます。 そうした場合、鉄剤などが処方されますが、それに加えて葉酸の不足を想定して食事を召し上がるとよいでしょう。 あるいは赤血球(ヘモグロビン) に含まれる鉄は動物由来のヘム鉄で、レバーなど主に肉や魚に含まれていますので、 メニュー選びの時に適切な量の鉄含有食材もお薦めかもしれません。鉄自体は広く食品に含まれるのですが、植物由来の非ヘム鉄は腸から吸収される割合が5%程度です。一方でヘム鉄は30~40%の吸収率と言われています。
妊娠中のママたちは妊娠後期には特に貧血になりやすいそうで、昔はレバーを食べるとよい、 と言われていました。 ところが、レバーなどに含まれるビタミンAの過剰摂取は胎児に奇形が起こる可能性があると国立健康・栄養研究所でも警告しています。

どの程度で過剰摂取になるのでしょう? ハードルと言われている摂取上限量は平均2700μg です。 牛レバーでは100g で 1100μg ですが、鶏のレバーでは14000μgですので、100g 食べれば、あっという間に上限値を超えてしまいそうです。 ビタミンAは脂溶性ビタミンで、体内に蓄積もします。もちろん多くの重要で有用な働きもありますので、召し上がる時には量に注意することを念頭に置くとよいでしょう。
新型コロナウイルスによるパンデミックによって全世界が暗い気持ちで過ごすなか、新しい命は希望の光です。 世界中の新生児が健やかに誕生することを祈らずにはいられません。

減塩のススメ (2021年7月掲載)

「濃紫陽花一輪匂う床柱ー中嶋正子」
 東京では庭に紫陽花が咲くお宅を多く見かけます。 先日そんな一軒のお玄関先に “ご自由にお持ちください” の貼り紙とともに、バケツー杯の紫陽花が置かれていました。 ありがたく頂
戴し、持ち帰った紫陽花を大きな花瓶に溢れるほどに飾り、曇天の日々、 目を楽しませてくれています。

 ワクチン接種が進んでいますが、 これまでの自粛生活で日常の暮らしを豊かに過ごす方法を見つけ出した方も多いと思います。 外食より自宅でおいしい食材を利用して、様々なレシピに挑戦している方もおられるでしょう。プチ贅沢を楽しむ方が多い日本では空前の食パンブームで、 1斤 1000 円を超えるいわゆるブランド食パンが飛ぶように売れていると聞きます。 ご自宅でパンを焼く方はご存知と思いますが、 パンの生地にほんの少し塩を入れます。 私たちの味覚は舌の表面に並んでいる味蕾で感じます。 たとえ食べ物の中に食塩が入っていても、味蕾に付着しない限り私たちは塩味を感じることはありません。

 
日本人は世界的にみて、 胃がんの発症率が高いことが知られています。 高血圧の予防に減塩と言われて長くなりますが、 胃がんはどうでしょう。胃がんと食習慣の関連性を調べた統計を見ますと、 塩も大きなリスクになります。 胃がんは冷蔵庫の普及とともに、 先進国での発症率が低下したことは知られています。保存に利用していた塩が必要なくなったためだそうで、 ある本に胃がん罹患率の低下に貢献したのは、ドクターではなく、 電気屋さんかもしれません、と書かれていました。 つまり、塩の過剰な摂取は大きなリスクだったのです。

 胃がんの発症にはピロリ菌犯人説が定着していますので、ピロリ菌除去は薦められていますが、 塩に関して言及するドクターはあまり多くないだけでなく私たちの自覚も足りないようです。 塩を「少しずつ長い時間をかけて減らしていけば誰にも気づかれないし、売り上げも減らない」との作戦で10年間にわたり、国中のパンの塩分濃度を下げていき (もちろん大手メーカーも協力しました)ついに食パンの塩分濃度を20%下げ、 成人の食塩摂取量が 15%減ることで、 心筋梗塞と脳卒中での死亡率が約4割も下がるという大成功をした国がイギリスです。 もちろん胃がんの罹患率も低下しました。 こうした減塩作戦はイギリスのように国や企業が主導してくれなくても、 自分自身でトライすることができます。 特に、漬物や干物のように味わう塩 (食材の表面についていて、味蕾で感じる塩) を減らすことは案外簡単です。 隠れた塩 (パンなど食材全体に入っていて味蕾で感じられない塩)を減らすのは難しいのですが、意識しておけば、食材選びの参考にできるでしょう。
jast の顧問遠藤先生も論文で塩のリスクについて強調しておられます。 自宅で食事を作る機会が与えられている今日この頃、減塩メニューを考えるのも豊かな暮らしの1コマかもしれません。

水無月 夏越の祓い (2021年6月掲載)

「みなずきの夏越の祓いする人は千歳の命延ぶと
いうなり 読み人知らず」

 夏越の祓いというのは茅の輪くぐりを主とする神事です。私の生まれ故郷、京都では白峰神社や北野天満宮が有名で、茅で作られた大きな輪をくぐり抜けて、 その年前半の穢れを清め、残り半年の無病息災を願う伝統行事です。 この神事は高天原を追放された素戔嗚尊が貧しい身なりでとある村を訪れ、一夜の宿を求めたところ、村一番のお金持ち、巨旦将来は身なりをあげつらって断り、貧しい蘇民将来は一生懸命もてなしたので、そのお礼として素戔嗚尊が茅の輪を授け、これを身に着けていれば疫病から身を守れると伝えて村を去り、その後、村で疫病が流行ったときに、茅の輪を身に着けていた蘇民将来の一家だけが疫病から逃れたという言い伝えが由来となっています。京都にある八坂神社の主祭神も疫病除けの神 素戔嗚尊で、7月に行われる祇園祭は疫病が流行らないよう願って盛大に行われる夏祭りです。 このように疫病は古来より恐怖の対象でした。適切な治療法もなく、無念を抱えた怨霊が病を流行らせると考えた人々はひたすら神に加護を願ってやり過ごしていたのです。すでに2年が経過しようとしている新型コロナウイルス感染症も典型的な疫病です。その広まりは国境を越え、世界を席巻しています。

  Covid-19 の初めての報道は日本では 2019年12月31日でした。 その当時は誰もがもっと早く終息するものと考えていたでしょう。ところがウイルスは変異を重ね、やっとワクチンが行き渡りそうな現在まで多くの重篤な方や亡くなった方がおられます。そして日本を含む世界では生活様式や日常生活に変化が見られました。 家族の絆が再認識されたこともその一つかもしれません。 逆に心が荒んで家庭内暴力やヘイトクライムが増えたことも挙げられるでしょう。外出禁止でコロナ鬱やフレイルの進行を心配なさる向きも多かったかもしれません。ワクチン接種が進んでいる欧米やイスラエルの様子が伝えられ、報道によれば WHO の見解として7割以上の方の接種が終われば集団免疫(一定以上の人が感染することで、感染者が出ても他の人への感染が減り、流行が収まること)を獲得できるであろうとしています。 日本でも遅まきながら大慌てでワクチン接種を進めています。欧州や米国とは異なり、緩い方針で緊急事態宣言を継続している日本がワクチン接種によって集団免疫を獲得できる日が早く来れば、感染症が流行した際の人流を抑制する一つの方法と言えるかもしれませんが、島国の日本がニュージーランドのように、より厳しい措置で対応していれば失われた命がもっと少なかったのではないか、と考えずにはいられません。終息の兆しが少しだけ見えてきた Covid-19。トンネルを抜けるまで体調を整え、心を整えて日々を過ごしてまいりたいと思います。

植物と私たち(2021年5月掲載)

 緑豊かな皐月に入り、 我が家の庭も木々や花々で彩られています。 植物は私たちと同じ共通祖先から遥か昔に枝分かれした真核生物ですが、私たちとは異なり脳や臓器を持たず、目に見えないほどゆっくりとした動きで生命活動をしています。

 では植物には意識や感覚は無いのでしょうか? 私たちが外界を知るには目や耳が大きな役割を果たしています。視覚が機能するには光を受け取ることが不可欠です。光合成によってエネルギーを得ている植物も同じように光は不可欠で全身に光受容体を張り巡らせて、紫外線や色などを鋭敏に感知しています。室内で植物を育てた経験をした方にはわかりやすいと思いますが、光のある方向に葉を動かす屈光性は単に光を探すだけでなく、波長や色の情報も得ているのです。また、植物が生き延びるには環境情報が不可欠です。芽を出す春、葉を落とす冬など、絶え間なく変化する周囲の情報に適切に反応しない限り子孫に命を繋ぐことはできません。

 意思疎通はどうでしょう? 生物学の巨人ダーウィンは植物の根の先端(根端)は動物の脳に匹敵する機能を持っている、と述べています。生命維持に必要な水やミネラルの大部分を土から吸収する植物は根に人の脳に当たる機能を備えていると考えられます。例えば、理化学研究所の報告では植物はホルモンのオーキシンを根端に多く蓄積させ、重力の方向だけに伸長することを妨げ、曲がり広がる方法でより多くの栄養分を吸収できるようにしています。

 聴覚はどうでしょう? 植物の細胞は機械受容チャンネルを備えていて、音の振動などを捉えています。これは私たちの聴覚が音波を鼓膜の振動によって最終的に音として認識しているのと同じです。

 コミュニケーションはどうでしょう? 植物が昆虫に葉を食べられたなど危険が迫ると生化学物質を空気中に発散させて同じ種にアラートを発するそうです。 オジギソウの葉に触ると葉が閉じることを子供のころに経験した方もおられるでしょう。ところが軽く何度も触れると危険が無いと判断して葉を閉じなくなるそうです。マサチューセッツ工科大学で開発したホウレンソウは土壌の水分から爆発物に含まれる芳香族ニトロ化合物を感知すると葉に仕込まれたカーボンナノチューブから信号を発信し、その情報を赤外線カメラで読み取り、Eメールで周辺のヒトに注意喚起するそうです。これも植物のコミュニケーション能力を応用した、ヒトと植物との共同作業かもしれません。植物は他にも多くの能力を備えて地球にドンと根を張っています。よく緑に癒されると耳にしますが、 私たちも緑を癒す能力を発達させたいものです。ギリシャ神話には樹木の精霊ドライアッドが登場します。優しい気持ちで森に入ればドライアッドに会えるかもしれません。

7つの大罪ー貪食(2021年4月掲載)

「久方の 光のどけき春の日に しず心なく花の散るらむ」
 百人一首にも収められている紀友則の有名な散る桜花を惜しむ名句です。東京でも桜の開花宣言があり、道を歩けば肩先に花びらが落ちてくることがあります。今年も昨年同様、お花見も自粛が求められていますが、路傍の桜を愛でることができるのも健やかであってこそ。この先コロナ禍が沈静化していくことを願っておりますが、一筋縄ではいきそうにない様子も報道されています。

 お籠もり生活が続くこの1年で太ってしまったと嘆く方のお声を聴きますが、ふっくらしていても魅力的な体型を維持している方もたくさんおられます。外形の問題でなければ、肥満の何が問題なのでしょう? 脂肪は1g で9kcal ものエネルギーを産み出す栄養素最大のエネルギー源であり、エネルギー貯蔵庫です。脂肪細胞から放出されるレプチンは食欲を抑えたり、脂肪燃焼を促したりする一方、脂肪細胞の貯蔵量が減れば、放出量を減らしエネルギーを筋肉などで利用しないように作用する有用なホルモンです。
日本では肥満と診断されている方が成人男性で約3割、女性の約2割、30年前と比較すると男性の場合、1.5倍になっていると報告されています。本来、飢えと戦っていた人類は肥満とは無縁でしたが、現代の先進国では高カロリーの食材が簡単に手に入るために肥満人口の増加が止まりません。肥満は糖尿病、脂質異常症、高血圧 、脳や心血管疾患などの生活習慣病のスタート地点になりがちです。ただ、私たちは高カロリー食を好むように設計された生物です。 つまり、意思の力で低カロリー食を選んで生活することは身体の内部に相当のストレスがかかることも否定できません。特に極端な食事制限にはリスクが伴います。栄養失調や筋肉量の低下、女性の場合には生理不順なども視野に入れる必要があります。

 ではどの程度が健康にとって最適なのでしょう。人はそれぞれ生活習慣が異なります。但し、肥満を抑制できる共通項が一つだけあります。古代ギリシャの医聖ヒポクラテスは食事の量を少なくすることを説いています。 1978年と古い研究ですが、女子栄養大学副学長の香川靖雄先生が、当時沖縄の児童の摂取カロリー量が児童の平均カロリー摂取量の2/3、成人でも約 20%低いことを報告しています。 沖縄県では心臓疾患、悪性腫瘍、脳血管系疾患が少なく、健康寿命も優良でしたが、現在では日本で最下位前後に転落してしまい沖縄クライシスと呼ばれています。その原因として琉球大学教授益崎裕章氏は米国型食事と車での移動による運動不足を挙げておられます。先生によれば、動物性脂肪の過剰摂取は食欲のコントロールを攪乱し、必要なカロリー以上に食べてしまう過食行動に繋がりがちとのことです。
私はキリスト教徒ではありませんが、聖書にある七つの大罪の一つに「貪食」があることを肝に銘じたいと思います。

 緑豊かな皐月に入り、 我が家の庭も木々や花々で彩られています。植物は私たちと同じ共通祖先から遥か昔に枝分かれした真核生物ですが、私たちとは異なり脳や臓器を持たず、目に見えないほどゆっくりとした動きで生命活動をしています。

スマホの電源を切って健やかな眠りを(2021年3月掲載)

三月の6日頃から春分までは啓蟄と呼ばれています。
「啓蟄の円空仏は素足かな 楠本憲吉」
 私が円空のことを知ったのは、亡き北森鴻氏の小説でした。造仏聖といわれる円空は 17 世紀に日本の各地を遊行し、野にある木の形を生かし独特な“円空仏”と呼ばれる仏像を多数彫り上げました。円空は“自然に逆らわずに、あるがままでいることが貴い”と説いたと伝えられています。
現代に生きる私たちは、自然との距離が離れがちですが地球上で生活する全ての生命は、地球のリズムから無縁ではありません。古来より人は太陽とともに起きて活動し、日の沈んだあとは眠るといった太陽の巡行に沿った生活を送ってきました。このリズムは今でも私たちの体内に刻み込まれています。

 自宅生活が余儀なくされる昨今では、特にそのリズムは乱れがちになります。夜遅くまでスマホやパソコン、 TV などに時間を費やすと、どんな不具合が現れるのでしょう? スマホなどの画面からはブルーライトと呼ばれる強い光が出ています。このブルーライトは可視光線の中で最もエネルギーが強い 380~500 nmの青色の光です。ブルーライトは目の疲れや痛みを引き起こすだけでなく、私たちの体内時計のリズムをも狂わすと言われています。 研究によれば、過剰にブルーライトを浴びると網膜の細胞に青色を感知するために必要な光受容体タンパクが異常に蓄積され、その結果網膜細胞にダメージを与えるそうです。また、睡眠を促すメラトニンの分泌も抑制されるだけでなく、スマホなどから出る電磁波によってメラトニンそのものが破壊される可能性もあります。メラトニンは呼吸や脈拍を緩やかにして、 身体内部の体温(深部体温)を下げ、私たちを睡眠に導くホルモンです。メラトニンは昼間の明るい光で分泌が抑制されます。コンビニなど人工的な照明の光が強い場所では夜間であっても分泌が低下します。メラトニンは体内時計と環境光の両方によって調節されています。そのため寝室の光の調節も睡眠にとっては大切です。メラトニンの分泌は10歳くらいをピークにして、加齢とともに徐々に衰えるそうです。メラトニンはサプリメントとして欧米ではドラッグストアなどで気軽に購入でき、日本でも並行輸入での購入が可能ですが、眠る前に服用してもわずかに入眠が楽になる程度で、ご利用の場合は睡眠検査を受けて服用の時間帯を決めることが望ましいと思われます。

 サプリメントに頼らずに、むしろ地球のリズムに合わせて過ごす日々を続けていき、メラトニンが分泌され始める午後9時にはスマホなどの電源を落とし、気持ちが落ち着く呼吸法や瞑想などで自然な睡眠を惹起するよう心掛けてもよいかもしれませんね。ハワイであれば波や風の自然音に合わせて緩やかな時を寝室に招き入れることも可能なのではありませんか。

新型コロナウイルス感染をビタミンDで防御(2021年2月掲載)

 東京の冬空はどこまでも若く澄み渡り、下界の混
乱とは無縁の美しさで広がっています。新型コロナウイルスの感染拡大は留まることもなく、日々増え続ける感染者数に私達は溜息をつくばかりです。クレタ島のラビリンスで生贄を食べ続けたミノタウロスをテセウスが退治したように、コロナウイルスを退治できる英雄が生まれるのでしょうか? コロナワクチンがテセウスなのか、私たち自身が持つ免疫細胞達がその役割を担うのか、いずれにしても一日も早い終息と世界中のヒト達の健康を願わずにはいられません。英雄の誕生を待っている間にも姿を変えつつ私達へのウイルス伝播を続けるコロナウイルスに対して、私達ができることがあるのでしょうか? 多くの研究論文などから、今できることをしばらくの間、この欄を通してご紹介してまいりましょう。

 自分が感染しないことは勿論ですが、ヒトに感染させないことも重要です。英国の研究では大多数のウイルス伝播は非常に初期の段階で起こり、特に発症から5日間に最も多くヒトに感染させ、重症でない場合、ウイルスが感染力を持つ期間は概ね10日間程度とのことです。私達が何らかの異常を上気道などに感じた場合、発熱が無くても3日間程度、発熱があれば10日ほどはヒトとの接触を避け、家族の方にも外出などを自粛していただくことで感染の伝播を一定程度抑えることができるのではないでしょうか? 一部のコロナ感染者様のお話では、発熱しても翌日には平熱に戻り、その2~3日後にまた発熱するといったこともあるそうで、平熱に戻ってすぐの外出や仕事復帰なども避けたいものです。

 私達自身の身体を守る方策もお伝えしましょう。ハワイでは日差しが強くビタミンDの体内合成は充分かもしれませんが、“血中ビタミンD 値が新型コロナウイルス罹患率や重症化リスクの低下に関与する”とされるいくつかの論文があります。 もともと、新型コロナウイルス感染症の予防や死亡率低下にビタミンD が有効ではないか、との仮説が提唱されていましたが、その可能性を支持する論文や臨床報告が英国や米国の大学、研究機関から出されています。 

特に興味深いのは米国ノースウエスタン大学が、ビタミンD 低値と過剰な免疫反応 (サイトカインストーム)との関連が認められたと報告している点です。また、研究者の一人、米国ルイジアナ州立大学のフランク・ラウ氏は「ビタミンDが新型コロナウイルスに対する免疫反応を強化し、 抗体の生成を助け、ウイルスが全身に広がるのを予防する可能性がある」と述べています。

 ハワイにお住まいの皆さまでも充分な紫外線を浴びる機会が無く室内での作業が多い方やご高齢の方はビタミンDをサプリメントで補充するのも良いかもしれませんね。テセウスが現れるまで、私自身毎日ビタミンDタブレットを利用し、自助努力の一環としています。

新しい年を雌伏の時と捉えましょう(2021年1月掲載)

「静かなる 夫婦暮らしの 笑初 (わらいぞめ) ー冨岡風生作」
 昨年はコロナ禍に明け、コロナ禍に終わった 1年でした。 コロナ禍は健康にも経済にも大きな影響を与え鬱々とした日々を過ごしておられた方も多かったと思われます。この先、ライフスタイルは勿論のこと、考え方や他者との関係など人類全体に大きな変化が訪れるかもしれません。
 
 改めまして明けましておめでとうございます。
今年が皆様にとりまして安寧で健やかな年となりますよう祈念いたします。
変化に柔軟な対応をするには思考を司る脳の機能が欠かせません。中でも私達は過去の記憶を参考にしながら行動を決めていきますので、記憶の重要性は言を俟ちません。ひらめきも決して空から降ってくるわけではなく、記憶の引き出しから取り出した経験の一部が土台になっていると思われます。記憶とは何かと聞かれたら、多くの方は思い出とお答えになるでしょう。脳科学で定義すれば、“外界から情報を得た時、その情報をあとで行動に役立てるために蓄積しておく脳の働き”と纏めることができそうです。以前に読んだ本に記憶は非常に長いドキュメンタリー映画のようなもの、とありました。記憶はまさに人が人である証左なのではないでしょうか。認知症が恐ろしいのはこの証左が失われていくことにあります。昨夜の献立を忘れても大きな混乱はありませんが、自分を取り巻く環境を忘れていくことは本人にとっては勿論のこと、家族や友人の喪失感は想像に難くありません。日常経験する全ての事柄の記憶は脳の中にある海馬と呼ばれる小さな組織に送られます。残念ながらこの海馬は認知症などの病気だけではなく、加齢によっても萎縮が進んでいきます。高齢者の「物忘れ」が加齢によるものか、アルツハイマー病などの初発症状かの区別がつきにくいのは萎縮という共通点があるためのようです。私達の記憶は海馬に送られ、フィルターにかけられた後、必要な情報は側頭葉の貯蔵庫に納められ、いつまでも保管されます。この貯蔵庫に入るには、印象が強い、重要性を感じる、そして何度も繰り返されている、といったことが必要だそうです。つまり、記憶にあることはこの3点のいずれかに該当しているのでしょう。 海馬が少し萎縮しても、年齢を重ねることの有利な点は記憶の蓄積が若い方より多いことです。今後の時流を読むには若い方の発想力に年長者の経験 + 記憶が重要な役割を果たしてくれるのではないでしょうか。

 コロナ禍の全てを負にせず、次の一手のためにも家族や友人、職場の人々とより良好な関係を築き、穏やかに健やかに暮らす雌伏の時として新しい1年を捉えたいものです。

朝食にコーヒー+パンでメタボ対策(2020年12月掲載)

 12 月には呼び名は諸々あります。一番有名なのが師走ですが、歳月(としはすつき)とも呼ばれ1年の締めくくりの月を表しています。12月と言えば、日本では歳末と相まって賑やかなクリスマス商戦が繰り広げられていましたが、世界的にCovid-19 感染症が蔓延する中、今年の冬は昨年とは異なる様相を呈しています。

 クリスマスはイエス・キリストの降誕を祝う日でカトリックの方は12月25日、正教会の方は1月7日と定められています。キリスト教誕生よりも遥か以前にヨーロッパでは冬至が過ぎると 「光の誕生」を祝う風習があったそうです。 今年のコロナ禍も光の誕生とともに終息し、希望に満ちた新しい年が巡ってくることを祈らずにはおられません。自宅で祝うクリスマスであれ、友人たちと祝うのであれ、食卓には日頃以上にカロリーの高いメニューが並びがちです。食事制限をなさっている方には少し苦しい時期かもしれませんね。一般的にメタボリックシンドロームは内臓肥満、 腹部肥満に高血糖、高脂血症、高血圧のうち2つ以上が合併している症状を指し、”死の四重奏”の有難くない別名を持っています。 飽食の現代ではメタボ予備軍も多いのではないでしょうか。

 京都府立医大の研究がそうした不安を緩和する一助となるかもしれません。研究は日本多施設共同コホート研究のデータ (10万人以上の健康な住民を登録し遺伝的背景や生活習慣と疾患のリスクを20年間追跡調査しています)を用いて京都在住の男女 3539 人 (内 15.7%がメタボに該当)にアンケート調査を行っています。コーヒーや緑茶の摂取回数とBMI、内臓脂肪面積との関連を年齢や性別、薬物治療の有無などで調整して解析した結果、コーヒーの摂取回数が多いほど、内臓脂肪面積が小さいという関連が認められました。次に朝食にコーヒー+パンというメニューが習慣化している場合を検討しています。結果は肥満、内臓脂肪蓄積型肥満などの有症率が有意に低かったそうです。また、 緑茶とパンの朝食では肥満は有意に低いのですが、内臓脂肪肥満に関しては相関していなかったそうです。朝食は私達の身体をコントロールしている時計遺伝子が末梢時計を動かすために重要ですが、 食事内容を検討することも大切です。 果物ばかりやサラダだけ、などといったメニューでは細胞が働くには少々無理があります。細胞達が活き活きと働くためにはタンパク質やビタミン・ミネラルは勿論のこと今回の研究結果によれば、パンなどの糖質も大切なのでしょう。けれど、砂糖のたっぷりかかったパンなどは避けた方が上策です。因みにコーヒーの有用性は他にも多くの研究で伝えられています。

 一日最低1回でもコーヒーや緑茶などの飲料を召し上がり、 それが朝食と一緒であれば、豊かな気分とメタボ対策の一石二鳥となるのは嬉しいことですね。

秋の夜長と肝臓(2020年11月掲載)

 千葉県鴨川で今、この原稿を書いています。 鴨川の湾を挟んで遠くに見える山々では紅葉が始まり、緑のキャンバスに紅色や黄色で点々と絵具を落とした点描画のようです。 昨夜は帰宅途中でキョン (小さな鹿のような姿です)に出会いました。明日は東京に戻りますが、リモートワークも悪くないと思える日々です。

「白玉の歯に沁みとほる 秋の夜の酒はしずかに飲むべかりけり ー若山牧水」
 私はお酒を嗜みませんので、お酒の魅力を語ることはできませんが、この句を読むと深まる秋の夜長に窓越しに見える冴え冴えとした月を肴に緩やかな時を噛みしめながら過ごすひと時の在り様が目に浮かびます。

 お酒は少量であれば、健康に有益との研究報告がありますが、過度の飲酒はお薦めできません。肝臓は私達の身体の中にある最大の臓器です。肝臓がそんなに大きいのは、2000種類以上の酵素たちが 500 種類もの生命を維持する機能を同時にこなしているからです。肝臓が沈黙の臓器と呼ばれるのは、仕事で手一杯なため少々のトラブルでは私達に苦痛を伝えてくれないからです。アルコール性肝障害はアルコールを控えて(できれば断酒して)生活することで概ね良くなります。
一方、近年増加傾向にある非アルコール性脂肪肝 (NAFLD) は将来的に肝がんに発展する可能性も視野に入れる必要があります。脂肪肝と聞くと、肝臓に脂肪が蓄積している状態を思い浮かべます。事実、全肝細胞の 30%以上(肝細胞内に油滴が5%以上) が脂肪化している状態を脂肪肝と呼ぶのでイメージ通りでしょう。 軽い脂肪肝であれば、生活スタイルを改善するだけで良好な結果が得られます。 因みに日本人の3人に1人は肝臓に何らかの異常を抱えていると報告されています。

 さて、NAFLD にお話しを戻しますが、 主な原因は食べ過ぎです。 顕微鏡でNAFLD の肝細胞を見ますと油の粒でパンパンに膨らんでいる様子が確認できます。この非アルコール性脂肪肝を放置すると、肝細胞は風船が破裂するように壊れて炎症を起こし、水分の減った肝臓は硬くなり、線維化という現象が表われます。これがアルコール性脂肪肝炎(NASH)です。このNASH が肝がんや肝硬変に移行する危険な脂肪肝ですので、必ず適切な治療を受けていただくようにお願いいたします。肝臓の状態は血液検査で知ることができます。非アルコール性脂肪肝の簡易チェックは女性の場合、 ウェスト÷ヒップ=0.8以上が注意ゾーンとなります。
また、過度なダイエットの結果、栄養不良などからNAFLD ➡NASH➡肝がんなどのケースもありますので、黙々と働いている肝臓への適切な栄養補給は意識して行ってください。

 最後に肝臓と腸は腸肝相関と呼ばれて切っても切れない縁で結ばれています。肝臓のお手入れと一緒に腸のお手入れも忘れずに、健やかな日々を楽しんでお過ごしください。

目黒法人会「椎の木」

2021年夏号『植物と生きる』
2021年春号『ビヘイビアヘルスに取り組みませんか』
2021年冬号『逆風にも負けない冬薔薇のように』