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エビデンスに基づいた健康情報

新型コロナウィルス感染症とワクチンについて

抗体カクテル療法について知りましょう
2021-08-28
 今回は「抗体カクテル療法」についてお伝えしたいと思います。報道などを聞くと、この抗体カクテル療法(中外製薬ロナプリーブ点滴静注)を受けると、入院・死亡のリスクが約70%減少するように私たちは理解してしまそうですが、実際にはどうなのでしょうか?また、今感染爆発しているデルタ株などの変異株に対してはどうなのでしょうか?日経メディカルに掲載された内容を掻い摘んでお伝えしましょう。詳細をお知りになりたい方で日経メディカルを購読なさっている場合にはそちらを併せてお読みください。

 カクテルと聞くとお酒を思い浮かべそうですが、抗体カクテル療法とは何なのでしょうか?私たちの身体には、ウィルスや細菌などの異物から身を守る免疫機能があります。免疫は異物が侵入すると、その異物に対処する抗体を作り出し、異物を無毒化する抗原抗体反応と呼ぶ働きをします。この抗体を利用する医薬を抗体医薬と呼び、病気の原因となる特定の異物に対して人工的に作った抗体によって、病気を治します。他の組織や細胞に作用することが少ないために、有害作用が起こりにくいそうです。今回の抗体カクテル療法に利用される2種類の薬剤は新型コロナウィルスが細胞に侵入するアイテムである棘のようなタンパク質(スパイクたんぱく質)の異なる場所を見つけ出し、細胞に侵入することを防ぐことでウィルスの増殖を抑えると考えられます。説明図は中外製薬のプレスリリースをご覧ください。

 では、この方法でどのくらいの方に有効性があるのでしょうか?以前、ご紹介いたしましたワクチンの有効性と同じで100人の軽症者のうちで70人に有効であったわけではありません。偽薬グループで3.2%が入院・死亡だったのに対して、カクテル療法群では1.0%、別の見方をすれば投薬しなくても96.8%の方は入院も死亡もしないということになります。つまり、100人のうち、97人はこの療法を選択しなくても重症化しなかったとも言えます。私見ですが、現状の入院治療自体が難しくなっていて、不安が広がっている中で、治療を受けられるだけでも感染した方の安心感に繋がり、少数であっても重症化を防げるのであれば、現在は厚労省の医療機関へのこのお薬の配布は限定的としていますが、望む方が早期にこの治療を受けられるシステム作りを早急にしていただきたいと思います。

 では、デルタ株などの変異株には有効なのでしょうか?こちらも日経メディカルの記事からご紹介します。この抗体カクテル療法で複数の変異株に対して、試験管レベルでは有効性があるとのことですが、実際にヒトに対しては検証されていません。添付文書では有効性が期待できない可能性もあるとされています。
別の資料ですが、米国イーライリリー社が2021年2月3日に発表したモノクロナール抗体薬の第Ⅲ層試験の結果があります。この段階でこの抗体薬の感染予防効果は約80%で、米国のFDAでは今年の11月より緊急使用を許可しています。こちらは高齢者施設の入居者とスタッフを対象に薬剤の投与が行われた結果を発表し、新型コロナウィルスによるパンデミックの潮流を変える上で重要な役割を果たすとリリー社はプレスリリースで語っています。

 新型コロナウィルス関連の情報は未だに錯綜しています。私たちはつい明るい方向、楽観できる方向を見てしまいますが、今はまずうがいやマスクなど従来からの感染予防をしっかりして、気を緩めずに日々を過ごしていきたいものです。