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エビデンスに基づいた健康情報

新型コロナウィルス感染症とワクチンについて

ブレークスルー感染とワクチン接種/感染により心筋梗塞・脳梗塞のリスク大幅上昇ーLancet誌(2021/07/29)
2021-08-21
 今回は新型コロナ感染症のブレークスルー感染に関してお話しましょう。
8月16日は私の生まれ故郷京都では五山に大文字などを象った火を燃やし、先祖の精霊をお送りします。東京に越してからも毎年祖父母の住む京都を夏の間訪れていましたが、大文字焼きが終わると、東京に帰り日常に戻る日が近づき、その折の寂寥感を今でも思い出します。その頃、迎えてくれた祖父母も送り出してくれた両親もすでに他界し、送り火を焚くのは私だけになりました。我が家だけでなく、今年も日本国中でたくさんの精霊を送る火が焚かれたことでしょう。Covid-19による感染症で、本来であれば失われずにすんだみ霊をお送りするために焚かれた火もあったことでしょう。ご遺族様には衷心よりお悔やみ申し上げます。また、これ以上、感染による悲劇が少なくなりますよう、私たちもできうる限り努力を積み重ねてまいりたいと思います。

 世界的に猛威を振るうCovid-19は新しい変異株を次々に出現させています。ワクチンの接種が進んでいく中で、気になることは接種後のブレークスルー感染です。米国マサチューセッツ州で起こった大規模クラスターでは、マサチューセッツ州公衆衛生局が同州のCovid-19に関するシステムを利用して7月10日~26日の間の旅行履歴データから内容を特定しました。分析によれば、ワクチン接種済みのブレークスルー感染者が74%と衝撃的な事実が伝えられ、不安に思われた方も多かったのではないかと推察いたします。そして感染者から採取した検体の遺伝子解析によれば、その89%がデルタ株で、ワクチン接種者と未接種者のウイルス量が同程度であったとも伝えられています。但し、現在のところ、この感染による死亡例、重症化例はこれまでのところ、伝えられていません。因みに米国疾病予防管理センター(CDC)の解析によれば、ワクチン接種完了後14日以降から発症するまでの中央値は86日(範囲6~178日)だそうです。これを受けてCDCでは「デルタ株は非常に感染性が高く、新型コロナワクチンの予防接種は”重度の病気や死を防ぐための最も重要な戦略”で、マスクの着用を推奨する」と述べています。

 ところで、ブレークスルー感染するのであれば、ワクチン接種に疑問を感じられる向きもあるかもしれません。けれど、ワクチン接種が進めば、全体数としてブレークスルー感染者が増えるのも当然かと思います。ブレークスルー感染が起こる頻度を研究したイスラエルの報告では、ワクチン(ファイザー社製)接種完了後、2週間以降に発生するブレークスルー感染の発生率は2.6%(無症状のケースも含まれています)だそうです。今の時点で、報道でも言われているように、ワクチン接種後のブレークスルー感染による重篤化は防げるようですので、数だけをみてワクチン接種を躊躇うことが避けていただきたいと思っております。但し、アレルギーがあるなど個々人での事情がありますので、事情を抱えていない方が積極的にワクチン接種をすることで、そうした方々をもお守りできる可能性がありますね。

 別の研究もこの紙面を借りて簡単にお伝えしておきましょう。この感染症は心筋梗塞・脳梗塞のリスクも大幅に上昇させるとの報告が7月29日Lancet誌に掲載されています。スウェーデンの8万7千例を解析した結果の報告で、筆者グループは「Covid-19は多臓器を標的にした複雑な疾患であり、これまでの研究でCovid-19が急性心血管系合併症の有力なリスク因子である」と述べておられます。
楽しい、あるいは希望的な話題が出せずに忸怩たる思いはありますが、日々の生活をなるべくリスクから遠ざけて、過ごしてまいりましょう。